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 昼間の暑さなど忘れてしまうほどの涼しい風になびかれちりんちりん、と鈴が鳴る。耳を傾ければ虫の音が響きわたりギルベルトは静かに瞳を閉じた。
視覚の支配から解放され一気に聴覚が冴え渡る。暫くそうしていると後ろから声がした。
「…昼間はあんなにはしゃいでおられたのに夜になると静かに成るなんてまるで蝉のようですね。何処か具合でも悪いのですか?」
 普段は空気を読んで発言を慎むなんて言われてるがそいつは騙されている。こいつは俺に対して慎むことは滅多にねぇ。
「…風に、あたってんだよ。冷たい風が吹いてっから涼んでんだ」
「………そうですか」
 素なのか、摺り足で気配を殺して近付き自分より少し距離を空けた場所に腰をつく。間に盆があるせいで近寄れとも言えずこの距離に少し腹がたった。こいつは距離を掴むことに、空間を読みそれを利用することに長けている。今もそうだ。引き寄せたくとも盆が邪魔で手をだせない。
無理矢理にでも引き寄せ、盆にあるビールとつまみをひっくり返した日にはこいつが鬼のように憤慨するのは目に見えている。
 今この瞬間を、自分を支配しているというのが気に食わず、ならばこのまま無視を決めているとふらっ、と縁側から庭へ歩き出した。
「・・・花火、しませんか?丁度昨日買い置いてたんです」
 そういって少しだけ嬉しそうに声を弾ませると返事を待たずにいそいそと準備を始める。蝋燭と、水を張った小さなバケツ。そして線香花火。今まで何度か花火をしたが、こいつは必ずといっていいほどこの小さく地味な花火を買ってくる。そしていつも最後にやるのだ。
 一本一本、静かに丁寧に、およそ花火の遊び方とは違う。
「…なんだよ。今日はその小さいやつだけか?」
「ええ。他のもありますがそれはフェリシアーノ君たちが来た時にでもと思いまして」
 年甲斐もなく花火を振り回してはしゃぐ『大きな孫』を想像しているのだろう。目を細めて笑う顔はまるで保護者の眼差しだ。ルートとフェリシアーノとはいまだ付き合いが続く。下手をすればティノやエリザベータ、ローデリヒとも合わせることもある。己の利益だけの同盟ではない、あの日々が決して無駄ではなかったと今でも思い知らされる。たとえもう、自分が亡国であろうとも。
 マッチを擦り蝋燭に火を点すと炎が揺らめく。ジジ・・と蝋燭の火が安定したのを確認すると右手を振りマッチの火を消した。瞬間の、火薬の臭いはすぐに消える。線香花火を一本持ち庭を背に、体を此方に向けしゃがみこみゆっくりと蝋燭の炎へとおろした。
「・・・・・・・・・・・」
 線香花火の先端に火が点されると同時に中に包まれていた火薬が燃え出しバチバチ・・と火の粉を彼岸花のように咲かせながら消えていく。先の玉が少しずつ大きくなり
「あっ・・・・」
 ほんの少しの揺れで地面へと落ちた。残念そうに息を吐くと燃え残った紐をバケツへと落とし、二本目に手を伸ばす。周りの民家も殆ど明かりを消し、この家も必要最低限の電気しか点けていないせいか普段よりも闇が濃い。耳を澄ませば虫の声と時折なる風鈴の音色、そして花火の咲く音が静寂を支配した。
 優しく頬を撫でる風に乗り火薬の臭いが鼻腔をくすぐる。何十年、いや何百年も嗅いできた火薬の臭いが今では懐かしくすら思う。
「・・・・・・・・・・線香花火の消える直前は『散り菊』って言うんで。」
 二本目の花火を咲かせながらポツリと呟く。
「『菊』は死者へ手向ける仏の花。どんなに足掻いてもがいても、非常な運命に翻弄されてしまう人の一生のようではありませんか。我々に比べれば彼らの命はまるでこの線香花火のように儚い灯火のようだ」
 ただ静かに淡々と発せられる言葉は小さな花火の音にかき消えた。二本目の花は最後まで燃え、紐には不純物の塊が黒く残り白い煙がうっすらとたち花火が終えたにもかかわらず菊はただ静かにそのあとを見つめる。
「…散り菊、か。ならお前はそいつらの最期を見つめているんだな」
 三本目の線香花火に灯を燈す。
「最期を見つめ・・・・お前は何を思う。もしも、国の最期――っ??!!!」
 紡ごうとした言葉は最後まで発せられることなく変わりに後頭部に受けた衝撃に顔を盛大にしかめた。いきなり抱き着いてきた菊を受け止めきれずに後ろ倒れこみ廊下に頭をぶつけたのだ。この近距離で、前触れも躊躇もなく。
「・・・っ・・つ・・・全力かよ・・・」
 菊は自分の身体にしがみつき、今は大分筋肉が衰え薄くなった胸へ顔をうずめる。抱きしめるその両腕が震えているような気がした。暫くの静寂。時折その背中を軽く叩いてやると安心したのか自分を拘束している腕の力が緩んだ。
「・・・・貴方を、看取るくらいならば・・この両目など」
「・・・お前、泣くほどか?」
 両腕で落ちないよう抱え起き上がると甚平の胸の部分の色が変わっていた。
「お前をおいて消える気はねぇから安心しろ」
 喪失、消失。亡国となりいつ消えてもおかしくない存在となった俺がいつしかこいつの弱点となっていた。涙でぐしゃぐしゃになった顔を袖で乱暴に拭ってやる。

初出ツイッター/2009年か2010年頃

魂の灯火01魂の灯火02魂の灯火03魂の灯火04魂の灯火05
2018/07/28(土) 06:15 ぷにち PERMALINK COM(0)
過去ツイッターで投下したネタやらSSをまとめたり修正してこちらに乗せたいと思います。
設定によって「国」「人名」、各シリーズにカテゴリー分類させるので検索の参考に。
ツイッターは大体2009年~2010年頃に呟いたやつでこんなん自分呟いてたんだ、と今ではあまり記憶にないです…。
いやでも昔のほうが色々考えてたな???
2018/07/28(土) 06:11 サイトについて PERMALINK COM(0)
「マンネリってしないの?」
 菊様と。
 ローテーブルをはさみ目の前に座る人物の言葉に自分の隣りが激しく動揺した。
「ゲホゲホッ!!」
「あ、ああ!!ローデリヒさん大丈夫ですか!」
 爆弾発言を告げた人間が腰を上げて尚も咽るローデリヒを心配する。いつもなら無視をするか馬鹿馬鹿しいと鼻で笑うが今は呆れよりも”なぜそんな事がわからないのか”という疑問のほうがまさった。
「…長い人生の中、好物をたった数十回食べただけでお前は飽きるのか?」
 エリザベータが質問をしておいて自分の回答を期待しないのはいつものことで。今回も真相は気になるけれど回答は気にせずただぽつりとこぼしたものだったのだろう。自分が返した言葉に間抜けな言葉とともに意表を突かれたアホ面をこちらに向けた。
「あー…まぁ…成る程。好きな食べ物ね。食べ物ときたか…いやたしかに食べるという表現はある意味正しいわね」
 いまだ咳き込むローデリヒの傍に膝をつきその背中をさすりながら一人ぶつぶつと納得をする。
 グラスに残る琥珀の液体を一気に流し込み空にする。どうせこれからまともな会話はしないだろうとソファから立ち上がり部屋から出ようとすれば扉の前で声がかかった。
「酔ってるんだからさっさと寝なさいよ」
 その言葉にハンドルを掴む手を止め振り返る。
「酒に酔ったことはねぇ。一度もな…酔うのはこれからだ」
 後ろにいる二人にそれだけ告げて部屋を出る。控えめに明かりが灯された廊下をいつもよりゆっくりと歩み己の寝室へと向かった。
「マンネリ、か…今日はどうしてやろうかとあれこれ悩む時の方が多いんだがな」
 飽きる。満足する。その程度の価値しかないものならば早々に捨てているしこんなにも執着することはないだろう。世界に色と光を与え、いつでも自分を楽しませるあの存在を手放す日などこの先も訪れはしない。

「…惚気とか。何あのニヤつき顔!!」

マンネリ01マンネリ02
2018/07/27(金) 23:23 護衛騎士と主君 PERMALINK COM(0)
護衛騎士と主君/第一節「絶望と出会いと」続き
***

「まったく本当に信じられないわ!!私たちに何の相談もなく騎士団長をいきなり辞めるなんて、あの馬鹿!!」
 美しく磨かれた調度品が並べられている廊下を軍服に身を包んだ女性が憤怒の形相を隠さず歩いていく。
「・・・エリザベータ、静かになさい。お上品ではありませんよ」
 その女性に引き離されつつもゆっくりとした歩みを崩さず眼鏡をかけた男が声かけると、前を歩いていた女性ーエリザベータは立ち止まりくるりと振り返った。
「ローデリヒさんは何とも思わないんですか?!」
「私も思うところは大いにあります。ですからこうして貴方と一緒にあのお馬鹿さんの屋敷にきているのではありませんか」
「あの無表情面に一発、ぶん殴ってやります!!」
 エリザベータの言葉に二人を案内していた使用人がびくり、と身を震わせる。
「・・・程々に。お上品にお願いします」
 程なくしてたどり着いた部屋の前で使用人は軽く会釈をしてその場を離れ、エリザベータが扉を三度叩いた。
「・・・入れ」
 重厚な扉一枚隔てた向こうから予想していたとおりの感情のない返事に、エリザベータは勢いよく扉を開け中へ入ると右腕を大きく振りかぶりながら目標へと駆けた。
「このお馬鹿さん!あんた一体なに考え・・・て・・・?」
 そして予想しない光景に右手をあげたままエリザベータが硬直する。
「・・・ええええええっ!?」
「黙れ。菊様の耳が腐る」
 目の前には自分たちの幼なじみであるギルベルトが無表情を貼り付けた”いつも”の顔のまま赤子を抱いて揺れていた。エリザベートの叫び声に赤子ではなくギルベルトの眉間に皺が寄る。
「はぁ?ちょっと??赤ん坊!?・・・え?あ、衝撃のあまりローデリヒさん呼吸が止まってる!!」
 信じられない光景を前に己の見間違えではないか、ローデリヒを伺えば彼は扉から数歩部屋に入った場所で身体を硬直していた。エリザベータが慌てて側に寄り手をかざしても反応がなく、少しの逡巡のあとローデリヒの腹を殴る。
「げほっ・・・エリザベータ、貴方も淑女なら・・・もう少し加減というものを・・・」
「す、すみません。ローデリヒさん!」
 端から見れば何かの演芸のように見える光景に、ギルベルトは穏やかな時間が騒々しく変わることにため息をついた。


 来客用のテーブルへローデリヒとエリザベータが席に着くと使用人がワゴンを引いてやってくる。目の前に出された珈琲を一口飲みようやく落ち着きを取り戻したローデリヒが口を開いた。
「・・・それで、その赤子が貴方が突然騎士団を去った理由なのですか?」
 かちゃり、とゆっくりとカップを置きギルベルトの腕に抱かれた赤子を見つめる。目の前のこの幼なじみは小さい頃から騎士一筋で生きてきた。たとえ肉親を失おうとも、その顔から感情が消え失せようともただただ己の夢見た景色のためだけに歩んでいたはずだった。それが一ヶ月前に突然”都合により辞任”し自分たちの前から姿をぱたりと消した先がこれである。
「正確には団長の責務だけだ。騎士団には所属している」
「あんた結婚相手も恋人も居ないはずじゃ・・・まさか遊び相手にできちゃった子?!」
「・・・エリザベータ、少しお静かに。先ほどその赤子の名をおっしゃっていましたが、伺っても?」
 エリザベータの茶々にギルベルトがじとりと睨みつける。騎士団長時代やその前からもギルベルトは女遊びもなく体調管理(溜まったとき)以外は娼館へは行かなかったのをエリザベータもよく知っていたはずだ。バイルシュミット家の兄弟親戚で赤子がいたという話も聞いていない。ましてやエーデルシュタイン家とバイルシュミット家は親戚同士である。
 だがギルベルトが最初に呟いた赤子の名前に既視感を覚えていた。自分たちの名よりも短い名を極東国で聞くが最近、我が国で何度も耳にしているものと同じ名で。
「・・・第十三王子、菊様だ。正式な名はクリュザンテーメ。知っているだろう」
「・・・・・・」
 ギルベルトから語られた赤子の名に沈黙する。疑問が解消したと思えば新しい疑問が次から次へと出てきて思考はそれどころではない。ローデリヒの記憶が正しければ二ヶ月前に生まれたばかりの王子が何故ギルベルトと共にいるのか。口数の少ないギルベルトの言葉の中で与えられる情報を整理し推測する。
「南方男爵に目を付けられていた。あのまま古都にいれば殺されていただろうな」
 古都。ギルベルトが口にした場所は彼が一ヶ月前の視察任務での行き先であった。ならば菊王子とはそこで出会い「保護」したのか。南方男爵については色々と噂が絶えない下劣な人物だったのを記憶して、ギルベルトの彼らしからぬ行為に納得がいく。
「王は後継に興味も示さず、王妃も亡くなられて後ろ盾がない・・・まさか貴方がなるおつもりですか?」
「護衛騎士として傍に使える。それだけだ」
「護衛騎士・・・」
 果たしてこの状況を護衛と言えるのだろうか。端から見ればどこからどう見ても育児である。ギルベルトの突拍子がないところは昔から”こうなった”今も変わらず周りを悩ませる。ローデリヒはめまいを覚え手を当てため息をついた。
「すでに書類は提出し受理されている。何の問題もない
「問題大ありよっ!!」
 それまで自分たちの会話を黙って聞いていたエリザベータが叫ぶ。
「あんた、あんた何でっ・・・あんなに夢見た団長をこんなあっさり捨てるのよっ!!」
「・・・エリザベータ」
 ローデリヒの制止の言葉をそのままにエリザベータはその身に携える長剣を引き抜きギルベルトへと向ける。
「答えなさい。ギルベルト・バイルシュミット。生半可な理由だったらその首を落とすわ」
「・・・・・・」
 騎士に憧れていたギルベルトに巻き込まれるようにローデリヒとエリザベートも騎士となった。そのことに後悔はない。だが幼い頃にあんなにも目を輝かせ夢や騎士伝を語っていた”あの頃の彼”への思いは、目の前の赤子で全て消されて良いものではなかったのだ。
 睨みつけてくるエリザベータの目をギルベルトはまっすぐ見据える。
「・・・あの場所にはなにもなかった・・・なにも。人々の歓声は雑音で名誉も栄光もただの飾りでしかない。あの場所が映すものは、「なにもなかった」」
 そうしてギルベルトはゆっくりと目を閉じ、再び開いた瞼の先の赤子を穏やかに見つめた。
「・・・その赤子に貴方が求めていたものがあると?」
 ローデリヒの問いには答えずギルベルトは赤子の頬を指で触れる。ギルベルトの小指ほどにしかない手がしっかりとその指を掴むと、赤子は嬉しいのか言葉にならない声を漏らした。
 赤子を見つめるギルベルトの目が穏やかに細められているように見えて、彼がこの選択を選んで失ったものに未練がないことを悟った。ギルベルトの答えとその様子にエリザベータは剣を鞘に納め、天井を仰ぐ。
「・・・あんたってば、ほんと・・・本当に馬鹿で不器用だわ」 ぽつりと呟かれた言葉をギルベルトはただ静かに受け止める。
「いくら歴史長いバイルシュミット家でもそれだけでは心許ないでしょう。これから王位継承に名乗りを上げるのならば、なおさらーー」
「菊様をこの国の王にするつもりはない。それに瞳を見ろ」
 ギルベルトがローデリヒに近寄りその腕に抱く赤子をつついて瞳を開けさせれば、まばゆいばかりの黄金の瞳がギルベルト達を映した。
「金・・・色・・・うそ、金の子?!」
「・・・・・・なるほど。運命の子では王位継承権を持てませんか」
 この国に古くから伝わる逸話により王族・貴族に生まれた「運命(さだめ)の子」は国王やその家の当主に着くことはできない。幸か不幸か、末席に生まれたこの赤子が王位継承で争いに巻き込まれることはないだろう。だが「運命の子」として狙われることがないとも限らない。
「ギルベルト、エーデルシュタイン家も加わりましょう。由緒ある格式の高い我が家ならば文句を言うお馬鹿さんはいませんでしょうし」
「ローデリヒさん本気ですかっ!?」
「ええ、本気です」
 「金の子」である菊王子と「銀の子」のギルベルト。その二人がどんな数奇な巡り合わせか、共にあるこの状況が昨日までいた自分の世界より色鮮やかに見える。
「私もこの国の未来を考えず私腹を肥やすだけの輩を守る日々に嫌気がさしてきましたので。この子が映す未来になにが見えるのか、楽しみです」
 ギルベルトが感じたものがローデリヒにも共感されたのか、はたまたギルベルトと赤子の強烈な姿を最初に目撃したときから頭が飛んでしまっていたのか。
 それでも弱者から平穏を奪い、一部の権力者達だけが安穏をただ享受しているこの現状に比べればこの小さな存在に賭けて見るのも面白いだろう。ローデリヒの唇が上がる。
「あああもうっ!!ローデリヒさんが行くなら私も行かざるを得ないじゃないですか!!騎士が・・・騎士が王族の子育てとか前代未聞ですよ?!そもそもギルベルトの時点でそれどころじゃなかった!!金と銀の運命の子が並ぶとか!!」
 エリザベータの大声に吃驚したのか赤子が泣き出すと、ギルベルトが鬼の形相で彼女を睨みつけるがエリザベータは意にも関せずぶつぶつと唱えている。
「では決まりですね。護衛部隊・・・団の方が宜しいでしょうか。王国へ設立許可の書簡をすぐに作成します。ギルベルト、ペンと書類は何処です?」
 こうなるとエリザベータは長いのでローデリヒは適当に流すことにしていた。誰にもなにも告げずに去った幼なじみは一人でこの王子を護ると決めたのだろう。提出した書類の変更と「第十三王子」ならびに「金の子」のために護衛部隊では心許なく、非常勤の騎士を入れて百人規模の護衛が必要だ。ベルを鳴らして使用人を呼び、蝋印と一式を持ってこさせる。
「ーー・・・・・感謝する」
 泣きやんだ菊をあやしながらギルベルトがぽつりと呟く。
「明日は槍が降らないことを祈ります」
「私はなーんにも聞こえなかったわ」
 幼なじみである自分たち二人になにも告げず一度は去ってしまったこのお馬鹿さんには、これくらい言ってもいいだろう。
 明日から変わる日々を思い描いて、ローデリヒは小さく笑った。


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2018/07/19(木) 09:38 護衛騎士と主君 PERMALINK COM(0)
7月に入って一気に猛暑日が続いていて、ペンを握る気力まで持ちません…なんとか掃除はもうひと踏ん張りしたいところです。エアコンを入れないと…。

「護衛騎士と主君」
全部で3項。
甘い夜01

トーンで隠れているけれど涙溜めてたり。
甘い夜01kiku
2018/07/17(火) 02:46 護衛騎士と主君 PERMALINK COM(0)
護衛騎士と主君
第一節-絶望と出会いと-

 憧れた景色があった。正義をその胸に抱き人々から羨望の眼差しを受け、厳しい訓練によって鍛え上げられた肉体とその剣技で国の憂いを払う。幼い日に初めてみた騎士は、誇り高い漆黒の軍服を身に纏いその大きな背中ですべてを守っているのだと信じて憧れた。自分も王国騎士団の一員となり理想の騎士へいつかなりたいと夢見ていた。
「・・・・・・・それもすべては遠き日の幻、かーー」
 眼前に立ち並ぶ騎士を眺め銀髪の青年が呟く。その顔に表情はなく真紅の双眸はただ静かに己の部隊を見つめていた。
 ギルベルト・バイルシュミット。白金のように輝く銀髪と希有な赤目の美貌を持ちながらも人としての感情は一切ない冷徹無慈悲な王国騎士団長として齢二十四年の青年の名は国内外に広く知られていた。
 等間隔に並ぶ騎士の顔は皆険しく前を見据えている。ギルベルトはその一つ一つを眺めるように視線を流す。どの騎士も厳しい鍛錬の成果によりこの場所にある。けれど一軍隊を鍛え上げた充足はこの胸に宿らず、長として軍を率いる責務も国を護る日々も、時計の針が延々と廻るようにただ過ぎていく。
 先の戦争で兄を失い、尊敬する父も後を追うように旅立った。それでもひかりを見失わないよう歩んだ先にあったものは、己が求めたものと遠くかけ離れたものだった。
 瞼を閉じれば遠い日の残照がゆっくりと静かに朽ち果てていく。


 かつて憧れた騎士団の頂点に立ちその場所から眺めた景色は幼い頃に憧れた輝きもなにもない「無」だった。



***

 王都よりはるか西南に位置する古都。隣国との国境間近のこの場所へ駐屯する部隊の視察のため拠点となってる古城へギルベルトは赴いていた。華やかな王城とは違い城壁は所々欠け、過去幾たびの戦争で襲撃を受けたままの姿はその戦いの苛烈さを訪れる者へ静かに語っている。
 司令部へ向かう石造りの廊下を歩いていると木々のざわめきに混じり何かの声が耳をかすめる。足は無意識に歩みを止めていた。
(・・・・・・ーー泣き声か?)
 耳に残る声の方向に顔を向けるがすでになにも聞こえない。
「バイルシュミット団長?」
 突然立ち止まったことを不信に思ったのか傍らを歩んでいた部下が振り返る。耳をそばだてても聞こえるのは木々のざわめきと遠くに鳴く鳥の声。けれど身体はあの泣き声の方へと動いていた。
「・・・先に行け」
 踵を返し来た道を戻るギルベルトを部下が呼び止めるが返ってきたのはただ一言。その不可解な行動に戸惑う部下を置いて、ギルベルトは己の足が赴くままに城内を進んでいく。
 主廊下を脇にそれた先の、小さな部屋から絶えず響く泣き声にかまうことなく扉を叩くが声に消されてしまったのか返事はない。
「失礼する」
 ややあって扉を開くと部屋の向こうに見えたのは数人の侍女と乳母に抱かれた小さな赤ん坊の姿。ギルベルトの来訪に気がついた侍女が慌てて駆け寄り頭を垂れる。
「申し訳有りません。先ほどまでぐっすりと眠られていたのですが突然泣きはじめ・・・」
「・・・赤子か」
 柔らかな日が差し込む窓辺に侍女がせわしなく動いていた。真白の布にくるまれた赤子は泣きやむ様子もない。
「先日お生まれになった第十三王子、菊様にございます。このような大泣きは今までありませんでしたのに一体どうして」
 語りかける侍女と共にゆっくりと窓辺へ近づけば乳母が困惑した顔を向ける。
「ああ、騎士様。申し訳ございません。あやしておりますが一向に泣きやまず」
 ギルベルトの無表情を見て乳母は泣き声がうるさいと注意しに来たと思ったのだろう。その両腕に大切に抱かれあやされる赤子の泣き声を不快に思うことなく、その柔らかく膨らむ頬に流れる涙を見てギルベルトの胸にゆっくりとひかりが灯されるのを感じた。
「・・・代わろう」
 努めて優しい声音でかければ乳母が優しく微笑みギルベルトへと赤子を託す。左腕でしっかりと赤子を抱き、安心させるよう布にくるまれた小さな身体を規則的に、力を入れないように叩く。いつかの街の巡回で見かけた親子の様子を思い出しながら。
「あー・・・うぅ?」
「まぁ、まぁ・・・!」
 程なくしてあんなに大泣きしていた赤子はぴたりと声をとめた。間近で見ていた乳母と一部始終を見守っていた侍女が感嘆の声を上げる。
「騎士様が抱いたとたんに泣きやむなんて」
 涙で濡れた頬をガーゼでやさしく乳母が拭う。ぱちぱち、と音がしそうな瞬きを繰り返した赤子の瞳は陽の光をうけ金色に輝いていた。
「・・・黄金の瞳・・・「金の子」か」
 この国に遙か昔から言い伝えられる「運命(さだめ)の子」。その中の「金の子」の特徴を瞳にこの赤子は宿していた。
「はい。ですが医師によれば心の臓が弱く、体も大きくはならないと・・・」
「・・・・・・」
 王族で病弱となれば何処から狙われるかわからない。ギルベルトの脳裏にふとした陰がよぎるが、その先に憂いなどないと、湖面を反射する光のように瞳が輝く。
「ああ、騎士様から代わればまた泣いてしまいます」
 静かな今のうちに乳母へ引き渡そうとするとギルベルトの腕から離れる雰囲気を察知したのか、また赤子が大きく泣き叫ぶ。乳母は伸ばした腕を止めそのままギルベルトが抱いていればぴたりと止んだ。
「・・・とんだ甘えん坊だ。名を菊と言ったな?」
「はい」
 困惑した顔の中に少しの笑みを浮かべ乳母が菊を見つめる。
「・・・誓おう」
 黒鷲がその翼をそぼ濡れたようにしっとりと光を反射する黒髪を梳き、涙で煌めく瞳をのぞき込めば、その双眸は反らされることなくギルベルトの赤い瞳を見つめた。
「プロイツェン王国騎士団所属、ギルベルト・バイルシュミットが誓う。我、汝の剣となりすべての仇なす者仇なす刃よりその身を護らん。我が生涯を菊、貴方に尽くすことを此処に」
 額に誓いの口づけをすれば小さな手が答えるようにギルベルトの頬を触れた。金の瞳が嬉しそうに弧を描き、くふくふと言葉にならない声をあげる。
「騎士様・・・」
 突然の騎士の誓いに困惑したのか乳母がぽつりと呟く。周囲にいた侍女は唖然として動きを止めている。本来の騎士の儀式は王の間で階級のある騎士と貴族、そして王と共に厳かに行われるので当然だろう。この飾りもない質素で小さな部屋のなか、見守るものは数名の下働きの侍女と乳母のみ。けれどその誓いは絢爛豪華に着飾られたものより光りに溢れ尊さに満ちていた。
「王妃は・・・亡くなられていたな」
「は、はい。難産でございました。今はこの城で過ごすようにと男爵様から仰せつかっております」
 金の瞳から顔をあげ乳母へと問えば乳母は短く答えつつ傍らにいた侍女に指示をする。
「南方の辺境男爵が?」
「はい。別命あるまでこちらで待機せよと書簡を頂いております」
 ギルベルトが疑問に思うのを予想していたのか乳母に指示された侍女が金属の筒を差し出す。その蓋を開け取り出した手紙の末尾に記されていた著名は癖の強い南方の領の者で間違いない。ただその簡潔な命令文に違和感が募る。
 聞けば王妃の急逝の知らせを受けた男爵が寄越したもので自分たちと菊とも直接の面識はないという。菊の母親である王妃と南方の男爵にはなんの繋がりもなく、むしろ前王妃との子、第四王子と一緒にいる姿が多い。
 ならば考えられることはひとつだろう。
「・・・荷物をすぐに纏めいつでもここから出られる準備をしろ」
 ギルベルトの言葉にさっきまで満ちていたあたたかな空気が一変する。
「・・・一体どちらに?」
 乳母が険しい顔でギルベルトを見据える。南方であれ男爵の爵位を持つ者の命令書と自分の言葉、どちらに従うか。検分するかのようにギルベルトを睨みつけた。
「我が別邸へ。遠からず使いが来るだろう。ここにいる全員を暗殺するために部隊を率いてな」
「暗、殺・・・」
 乳母の顔が青ざめる。
「南方男爵は第四王子の腰巾着だ。生まれたのが金の子であれ王子の王位継承を仇なすと、手段は選ばない。赤子のうちがもっとも殺しやすい」
 訪れる最悪の未来の可能性を答えれば、とたんに侍女達がざわめく。
「ですが、ですがそのようなことになればっ・・・!!」
「暗殺したのは隣国のローマ帝国。国境に近いこの場所ならばその説明も容易い・・・くだらん三下の考えるシナリオだ。邪魔な王子を消し、さらに王位継承で疲弊する隣国へ戦争をふっかける理由にもなる。あの男爵の薄暗い話はこちら(騎士団)にも耳にする。それこそ絶えず、うんざりするほどにな」
 なおも縋る言葉をギルベルトは絶つ。自分たちでは手の届かない身分の者のいいようにただ利用され運命は決まるのだと。
「なんと、ああ・・・」
 絶望にうなだれる乳母に同情はしない。
「我がバイルシュミット侯爵家ならば奴らも手は出せん。急げ」
 自分がいる限りこの小さな主に決して最悪の未来を訪れさせはしないのだから。
「は、はい!!」
 ギルベルトの言葉に我に返った乳母と侍女が素早く行動した。


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2018/07/13(金) 20:41 護衛騎士と主君 PERMALINK COM(0)
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