「マンネリってしないの?」
菊様と。
ローテーブルをはさみ目の前に座る人物の言葉に自分の隣りが激しく動揺した。
「ゲホゲホッ!!」
「あ、ああ!!ローデリヒさん大丈夫ですか!」
爆弾発言を告げた人間が腰を上げて尚も咽るローデリヒを心配する。いつもなら無視をするか馬鹿馬鹿しいと鼻で笑うが今は呆れよりも”なぜそんな事がわからないのか”という疑問のほうがまさった。
「…長い人生の中、好物をたった数十回食べただけでお前は飽きるのか?」
エリザベータが質問をしておいて自分の回答を期待しないのはいつものことで。今回も真相は気になるけれど回答は気にせずただぽつりとこぼしたものだったのだろう。自分が返した言葉に間抜けな言葉とともに意表を突かれたアホ面をこちらに向けた。
「あー…まぁ…成る程。好きな食べ物ね。食べ物ときたか…いやたしかに食べるという表現はある意味正しいわね」
いまだ咳き込むローデリヒの傍に膝をつきその背中をさすりながら一人ぶつぶつと納得をする。
グラスに残る琥珀の液体を一気に流し込み空にする。どうせこれからまともな会話はしないだろうとソファから立ち上がり部屋から出ようとすれば扉の前で声がかかった。
「酔ってるんだからさっさと寝なさいよ」
その言葉にハンドルを掴む手を止め振り返る。
「酒に酔ったことはねぇ。一度もな…酔うのはこれからだ」
後ろにいる二人にそれだけ告げて部屋を出る。控えめに明かりが灯された廊下をいつもよりゆっくりと歩み己の寝室へと向かった。
「マンネリ、か…今日はどうしてやろうかとあれこれ悩む時の方が多いんだがな」
飽きる。満足する。その程度の価値しかないものならば早々に捨てているしこんなにも執着することはないだろう。世界に色と光を与え、いつでも自分を楽しませるあの存在を手放す日などこの先も訪れはしない。
「…惚気とか。何あのニヤつき顔!!」
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