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馬鹿な子ほど可愛いとはこの国のことわざだったろうか。なるほどわかる。
「俺様がカッコイイのは当然だ。だがお前ができる人間かといえばまっったく逆のだめだめの駄目子さんだな!よくいままでこれで生活できてたか不思議だぜ」
「む、これでも自炊はできます。頑張ればお掃除もできます。お洗濯は苦手ですができないこともないです」
洗濯物は干すのが大変なんです。けっして背は低い方ではありませんが、などとぶつくさ呟いて気が済んだのか、ギルベルトを見る。
「忘れるところでした。通帳の暗証番号ですが、ぜろ、に、いちー」
すっと前に乗り出し身体を傾ける。4つめの番号は重なった唇の奥へと消えた。
「最後の数字はお前の誕生日だろ?」
すぐに離した唇をもう一度軽く、今度は音を立てながら離す。息がかかるほどの至近距離で見つめていた顔が耳まで真っ赤に染まった。
「ふぉおお……イケメン爆ぜ……やっぱ駄目ですぅうう」
「なんだそれ」
赤い顔を両手で覆い正座しながら器用にジタバタする背中に腕を回して引き寄せる。
二度目のお泊りに、想定外とはいえやることはヤッてしまっていたのにこんな子供への挨拶のようなキス一つで振り回されている姿が愛おしい。
熱しやすく冷めやすい、くしゃみ一つで飽きてしまうようなギルベルトにこの駄目駄目な大人の本田菊はいつまでもずっと共に居たい存在だとその時思ったのだった。

両親が他界したのはギルベルトが高校に上がってすぐのことだった。
今年は結婚記念日よりちょっとズレてしまったけれどなんて照れくさく笑って、二人だけで旅行へ行った翌日に地元警察からの連絡でギルベルトは二人の死を知った。
遺体が安置されている病院へと到着すれば同じく連絡を受けて両親の友人―ツヴィンクリ氏が駆けつけ警察と二、三、会話をしているのを俺はただぼうっと見つめ眺めていた。
ツヴィンクリ氏は欧州に住む親戚にも連絡をしたが遠方という理由ですぐに来れないという。
葬儀も火葬も両親の友人数人とギルベルトと弟のルートヴィッヒだけで終わり、墓は都市部から離れ、周りが山に囲まれ海が見える場所を選んだ。それがどうやら母方の親戚の気に触れたらしい。連絡をしたツヴィンクリ氏の電話から女の罵倒が止むことなく響く。
遺産目当てでギルベルトたちに近づいた、そうやって偽善ぶってお金が目当てなんだろう、などドラマの中でしか見たことのないような罵りの数々にもツヴィンクリ氏は口論をさけ冷静に対応していたように思う。
ようやく日本に行けるから、お話をしましょう。不安にさせたお詫びと今後の二人の将来について親戚同士だけで話がしたいと言われれば頷くほかなく、弟はまだ幼いからとひとりで待ち合わせに向かい帰ってきたギルベルトの腫れた頬を見て、常に冷静沈着であったツヴィンクリ氏の顔が見たこともないほどにこわばった。
「リーゼロッテ、二日経っても吾輩が戻らなければ欧州本部に連絡をし、代理を派遣させるのである。これよりお前にはギルベルトとルートヴィッヒの身辺警護の任を与える。良いか。吾輩が戻るまであの親戚を近寄せてはならぬ」
「Verstanden.Viel Gluck Bruder.」
そうして深夜に家をあとにし「我々がルートヴィッヒが成人するまでお前達の保護者である」と勝ち誇った顔で学校から帰宅したギルベルトを迎えた。
それがだいたい今から二年ちょっと前の出来事だ。あの親戚からは以降何も連絡もなく、自分たち兄弟二人とツヴィンクリ氏と穏やかに過ごしている。

「んー…あんまり複雑っていうほどのもんでもねぇなぁ」
シンデレラのように異母や姉妹にいじめられていたわけでもなく、白雪姫のように命を狙われたわけではない。ただちょっと親戚関係がこじれているだけだ。
菊とお付き合いを始め、いずれはツヴィンクリ氏に報告をしないといけないだろう。妹であるリーゼロッテに悪い虫がつかぬよう目を光らせているツヴィンクリ氏は果たして男であるギルベルトも未成年をそそのかしたと年上の菊へ詰め寄るのだろうか。
自室として充てがわれた部屋に寝転がりながらうんうんと唸る。
ゴロゴロと転がれば穏やかな日差しとともにゆっくりと流れるような時間と空気が胸を満たした。
「おや。どこか身体でも、お腹でも痛みますか?」
いつの間にか障子を開けた菊の声が上から響く。
「……別に。ちょっとゴロゴロしたかっただけだぜ」
またゴロゴロと、菊よりも一回り大きな身体を転がして彼のそばへ寄れば正座して待ち構えていた。
見上げた距離がさっきよりも近い。控えめに笑う菊の顔がよく見える。


菊はギルベルトの顔が好きだ。お付き合いを始めたときにしっかりと聞いたから、幻滅されないようカッコイイ顔をしていなければならない。
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2023/02/05(日) 22:37 ぷにち PERMALINK COM(0)
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