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 昼間の暑さなど忘れてしまうほどの涼しい風になびかれちりんちりん、と鈴が鳴る。耳を傾ければ虫の音が響きわたりギルベルトは静かに瞳を閉じた。
視覚の支配から解放され一気に聴覚が冴え渡る。暫くそうしていると後ろから声がした。
「…昼間はあんなにはしゃいでおられたのに夜になると静かに成るなんてまるで蝉のようですね。何処か具合でも悪いのですか?」
 普段は空気を読んで発言を慎むなんて言われてるがそいつは騙されている。こいつは俺に対して慎むことは滅多にねぇ。
「…風に、あたってんだよ。冷たい風が吹いてっから涼んでんだ」
「………そうですか」
 素なのか、摺り足で気配を殺して近付き自分より少し距離を空けた場所に腰をつく。間に盆があるせいで近寄れとも言えずこの距離に少し腹がたった。こいつは距離を掴むことに、空間を読みそれを利用することに長けている。今もそうだ。引き寄せたくとも盆が邪魔で手をだせない。
無理矢理にでも引き寄せ、盆にあるビールとつまみをひっくり返した日にはこいつが鬼のように憤慨するのは目に見えている。
 今この瞬間を、自分を支配しているというのが気に食わず、ならばこのまま無視を決めているとふらっ、と縁側から庭へ歩き出した。
「・・・花火、しませんか?丁度昨日買い置いてたんです」
 そういって少しだけ嬉しそうに声を弾ませると返事を待たずにいそいそと準備を始める。蝋燭と、水を張った小さなバケツ。そして線香花火。今まで何度か花火をしたが、こいつは必ずといっていいほどこの小さく地味な花火を買ってくる。そしていつも最後にやるのだ。
 一本一本、静かに丁寧に、およそ花火の遊び方とは違う。
「…なんだよ。今日はその小さいやつだけか?」
「ええ。他のもありますがそれはフェリシアーノ君たちが来た時にでもと思いまして」
 年甲斐もなく花火を振り回してはしゃぐ『大きな孫』を想像しているのだろう。目を細めて笑う顔はまるで保護者の眼差しだ。ルートとフェリシアーノとはいまだ付き合いが続く。下手をすればティノやエリザベータ、ローデリヒとも合わせることもある。己の利益だけの同盟ではない、あの日々が決して無駄ではなかったと今でも思い知らされる。たとえもう、自分が亡国であろうとも。
 マッチを擦り蝋燭に火を点すと炎が揺らめく。ジジ・・と蝋燭の火が安定したのを確認すると右手を振りマッチの火を消した。瞬間の、火薬の臭いはすぐに消える。線香花火を一本持ち庭を背に、体を此方に向けしゃがみこみゆっくりと蝋燭の炎へとおろした。
「・・・・・・・・・・・」
 線香花火の先端に火が点されると同時に中に包まれていた火薬が燃え出しバチバチ・・と火の粉を彼岸花のように咲かせながら消えていく。先の玉が少しずつ大きくなり
「あっ・・・・」
 ほんの少しの揺れで地面へと落ちた。残念そうに息を吐くと燃え残った紐をバケツへと落とし、二本目に手を伸ばす。周りの民家も殆ど明かりを消し、この家も必要最低限の電気しか点けていないせいか普段よりも闇が濃い。耳を澄ませば虫の声と時折なる風鈴の音色、そして花火の咲く音が静寂を支配した。
 優しく頬を撫でる風に乗り火薬の臭いが鼻腔をくすぐる。何十年、いや何百年も嗅いできた火薬の臭いが今では懐かしくすら思う。
「・・・・・・・・・・線香花火の消える直前は『散り菊』って言うんで。」
 二本目の花火を咲かせながらポツリと呟く。
「『菊』は死者へ手向ける仏の花。どんなに足掻いてもがいても、非常な運命に翻弄されてしまう人の一生のようではありませんか。我々に比べれば彼らの命はまるでこの線香花火のように儚い灯火のようだ」
 ただ静かに淡々と発せられる言葉は小さな花火の音にかき消えた。二本目の花は最後まで燃え、紐には不純物の塊が黒く残り白い煙がうっすらとたち花火が終えたにもかかわらず菊はただ静かにそのあとを見つめる。
「…散り菊、か。ならお前はそいつらの最期を見つめているんだな」
 三本目の線香花火に灯を燈す。
「最期を見つめ・・・・お前は何を思う。もしも、国の最期――っ??!!!」
 紡ごうとした言葉は最後まで発せられることなく変わりに後頭部に受けた衝撃に顔を盛大にしかめた。いきなり抱き着いてきた菊を受け止めきれずに後ろ倒れこみ廊下に頭をぶつけたのだ。この近距離で、前触れも躊躇もなく。
「・・・っ・・つ・・・全力かよ・・・」
 菊は自分の身体にしがみつき、今は大分筋肉が衰え薄くなった胸へ顔をうずめる。抱きしめるその両腕が震えているような気がした。暫くの静寂。時折その背中を軽く叩いてやると安心したのか自分を拘束している腕の力が緩んだ。
「・・・・貴方を、看取るくらいならば・・この両目など」
「・・・お前、泣くほどか?」
 両腕で落ちないよう抱え起き上がると甚平の胸の部分の色が変わっていた。
「お前をおいて消える気はねぇから安心しろ」
 喪失、消失。亡国となりいつ消えてもおかしくない存在となった俺がいつしかこいつの弱点となっていた。涙でぐしゃぐしゃになった顔を袖で乱暴に拭ってやる。

初出ツイッター/2009年か2010年頃

魂の灯火01魂の灯火02魂の灯火03魂の灯火04魂の灯火05
2018/07/28(土) 06:15 ぷにち PERMALINK COM(0)
過去ツイッターで投下したネタやらSSをまとめたり修正してこちらに乗せたいと思います。
設定によって「国」「人名」、各シリーズにカテゴリー分類させるので検索の参考に。
ツイッターは大体2009年~2010年頃に呟いたやつでこんなん自分呟いてたんだ、と今ではあまり記憶にないです…。
いやでも昔のほうが色々考えてたな???
2018/07/28(土) 06:11 サイトについて PERMALINK COM(0)
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