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畳の上で菊が静かに寝そべっている。この湿度の高い日本の夏を何度訪れてもなれないでいたギルベルトは、なるべくお互いが不快にならないよう少し離れた場所に腰を下ろした。
「…暑いなら、クーラーをいれて下さっても構いませんよ?」
夏バテしているのか目を閉じたまま気だるそうに菊は言った。
「…いや、いい。夏は暑いもんなんだろ?確かに暑いとクーラー入れたくなるけどよ、そうすっと折角の『日本』を否定しちまう。我慢すんのは得意な方だぜ?」
自分達にとってはそんなものが無かった時間の方が長い。セミの声が鳴り響く。
「……我が儘、聞いてくださいますか?」
注意して耳をすませていなければ聞こえないくらいの声。返事はしない。用意されたアイスコーヒーを飲んでいると、のそり、と仰向けていた身体を反転させ肘で起き上がる。と、ずりずりと下半身を引き摺りながらゆっくりと此方に近付く。乱れた着物をただすことなく、両手を広げギルベルトに凭れ込もうとすれば、勢い余ったのか二人とも後ろに倒れてしまった。
「……おまっ。……暑くねぇのかよ。」
せめてもの抵抗。返事はない。再び訪れる静かな時間。
「…この時期になると、どうしても…、」
先程よりも弱々しい声に胸の奥がざわめく。この時期―ああ、そういうことか。単色刷の日めくりカレンダーを見れば今日が八月十五日を表していた。
「考えるな、思い出すだけにしろ。」
そう強く言えば、僅かに黒髪が揺れた。落ちそうな身体を右腕で支えてやり、空いていた左手で汗で少しへばり着いた前髪をそっと掻き分ける。

―夏の幻でも、見ているのだろうか。

あやすように時折右手でとんとん、と叩いてやると規則正しい肺の動きを感じた。

初出ツイッター/2009年か2010年頃


夏の幻01夏の幻02
2018/07/30(月) 00:00 ぷにち PERMALINK COM(0)
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